公式記録の数字は「真実」の半分しか語らない
バレーボールのデータ分析において、重要視されている指標の一つに「サーブレシーブ成功率(返球率)」があります。試合後のスタッツ表(B票)を見れば、どの選手がどれだけ安定してサーブを捌いたかが一目でわかります。
しかし、日々無数のデータと映像に向き合うアナリストであれば、このパーセンテージだけでは試合の真実を語りきれないことに気づいているはずです。今回は、バレーボールアナリスト向けSNS「CourtEnd」の立ち上げにあたり、基本統計から一歩踏み込み、「返球位置」や「その後の攻撃選択」に焦点を当てた、一段階上のレセプション評価について考察します。
1. 「サーブレシーブ成功率」の定義とその限界
まず、Vリーグ(SVリーグ)など日本の公式競技会で広く採用されているサーブレシーブ成功率の計算式をおさらいしましょう。ジャパンバレーボールリーグ(JVL)の解説や技術統計判定要領によれば、以下のように定義されています。
サーブレシーブ成功率 = {(成功[優]×100) + (成功[良]×50)} ÷ 受数
- 成功[優](いわゆるAパス): セッターの定位置に返り、すべての攻撃パターンが使える状態。
- 成功[良](いわゆるBパス): アタックゾーン内でセッターが複数の攻撃パターンを使える状態。
この基準は、選手のレシーブ技術を横並びで評価する上では機能します。しかし、アナリストの視点で見ると、ひとつの大きな「死角」が存在します。それは、この指標があくまで「セッターの選択肢が(理論上)いくつ残されているか」という『状態』の評価に過ぎず、『その後の得点確率』を直接表しているわけではない、という点です。
[menber_only]
事実、サーブレシーブ返球率が勝敗に与える影響というのは、ほかの統計指標と比べて大きくないという研究結果も多く報告されています。
2. 解像度を上げる「返球座標」の可視化と戦術への影響
Aパスの定義である「セッターの定位置」は、実は意外と広いエリアを持っています。例えば、ネットから50cmの完璧な位置へのAパスと、ネットから1.5m離れたAパスでは、同じ「成功[優]」としてカウントされても、実際の攻撃の組み立ては大きく異なります。
近年、トップレベルのアナリストは「AかBか」という大雑把な分類から脱却し、「座標(X,Y)」でレセプションを評価し始めています。例えば、VolleyStationの座標データをスプレッドシートのVSCOURT機能などを用いてコート図上に可視化することで、「返球位置の数十センチのズレ」が「ミドルブロッカーの助走ルート」や「パイプ攻撃の参加タイミング」にどう影響するかをトラッキングするのです。
データを重ね合わせていくと、「ネットに近すぎるAパス」よりも、「少し離れた位置へのAパス(あるいは良質なBパス)」の方が、相手のリードブロックを分散させやすく、結果的にチームのサイドアウト率が高くなる、といった逆転現象が発見されることも珍しくありません。これは、従来の成功率の枠組みでは絶対に見えてこない事実です。
3. 究極の指標「レセプション・アタック効果率」と「システム」の評価 「良いパスが返ったか」ではなく、「そのパスからどれだけ点を取れたか」。 分析の質を極めようとする層が最終的に辿り着くのが、レセプションを単独のプレーとしてではなく、攻撃の起点として一連のフローで評価するアプローチです。
海外のデータバレー界隈でよく用いられる**「In-System(システム内)」「Out-of-System(システム外)」**という概念を取り入れ、以下のような指標を独自の視点で構築します。
- In-Systemアタック決定率: Aパス・Bパスが返った際(=システムが機能している状態)の、チーム全体のアタック決定率。パスが返っているのにこの数字が低い場合、問題はレシーバーの技術ではなく、セッターの配球パターンやアタッカーの決定力、あるいは相手のブロックシステムにあることが浮き彫りになります。
- サイドアウト期待値(Expected Side-Out): リーグ全体の平均など、基準となるデータから「パーフェクト(R#)からのサイドアウト率は〇〇%」「ポジティブ(R+)からは〇〇%」といったレセプション評価ごとの得点確率(係数)を抽出し、自チームのレセプション実績に当てはめて算出する「本来獲得できるはずのサイドアウト率」のことです。
おわりに:数字の「その先」を議論する場所へ
サーブレシーブ成功率は、たしかに重要なバロメーターです。しかし、チームを勝利に導くアナリストの仕事は、その数字を鵜呑みにせず、「そのAパスは本当に自チームの強みを活かせているか?」「このBパスからでも確実に1点を奪える戦術は何か?」と問い続けることではないでしょうか。
「CourtEnd」では、こうした公式スタッツの「その先」にある独自の指標や、マニアックなデータの可視化手法について、皆さんと深く議論していきたいと考えています。ぜひ、あなたのチームで実践している「こだわりの評価基準」を投稿してみてください!
[/menber_only]
