この記事は、海外バレーボール分析ブログ「thevolleyballanalyst」(運営:Hai-Binh Ly)の公開記事を筆者の視点で紹介するものです。引用許可を取得した上で執筆しています。
シーズンが終わるたびに、書く
試合のスタッツを取り、データを分析し、そしてシーズンが終わるたびに「コーチングリフレクション」と題した記事をブログに書いて公開する——Hai-Binh Ly(ハイビン・リー)はそれを2016年から現在まで続けている。
指導したチームはひとつではない。City University London、UCL Men、Flaming Six Coyotes、American School in Londonなど、複数チームを同時期に掛け持ちしながら、それぞれについて個別の振り返りを書く。シーズンによっては4〜5本のリフレクション記事が立て続けに投稿される。
アナリストでありコーチである、という立場
Hai-Binhのリフレクションが特別なのは、書き手の立場にある。彼はアナリストとして自らスタッツを計測しながら、コーチとしてチームを率てる。データを持ってベンチに立ち、数字を見ながら采配を振る。その二役をこなす経験が、振り返りに独自の深みをもたらしている。
「データ上はこういう結果だった。しかし実際のコーチングはこうだった」——その照らし合わせができるのは、両方の立場を生きているHai-Binhならではだ。
具体的な学びの断片:改善できたこと
データが自信をつくった決勝
2025年のAmerican School in London(ASL)シーズン。Hai-Binhは大会前に対戦相手3チームのスカウティングを実施し、それぞれの得点率を事前に分析した。調べてみると、対戦候補の各チームはいずれも失点がやや上回る傾向にあった。一方のASLはシーズンを通じて得点がわずかに上回っていた。
「得点率の高いチームが試合に勝つ可能性は非常に高い」——自身の研究で示してきたこの知見が、ここで直接生きた。Hai-Binhは「あとは自分たちのレベルで戦えばいい」という確信を持って大会に臨み、チームは5戦全勝で優勝を果たした。理論を実践に落とし込み、結果につなげた典型的な例だ。
ビデオセッションが試合を変えた
2022年のASLシーズン、大会決勝の前夜。アシスタントコーチが「ビデオセッションをやろう」と提案した。対戦相手のラウンドロビンの映像を選手と一緒に見直し、個々のプレーをその場で確認した。
翌日の決勝、チームは序盤に大きくリードを奪われながらも逆転し、それまで一度もセットを取れていなかった相手を下して優勝した。Hai-Binhはリフレクションの中で、「あの夜のビデオセッションが最大のターニングポイントだった」と振り返っている。データとビデオを組み合わせた準備が、大舞台で機能した瞬間だ。
選手と価値観を共有する試み
2025年シーズン、Hai-Binhはシーズン当初から「チームバリュー」の策定に取り組んだ。単に目標を与えるのではなく、選手自身が言葉にするプロセスを経て「Effort・Focus・Positivity・Respect」という4つの価値観が定まった。スタッツやシステムだけでなく、チームの文化をつくることへの関心が年々深まっているのが見て取れる。
具体的な学びの断片:正直に書かれた失敗と課題
「自分がthevolleyballanalystなのに」
先ほどのビデオセッションのエピソードには、実は続きがある。Hai-Binhはリフレクションの中で、あのアイデアを出したのは自分ではなくアシスタントコーチだったと正直に記している。そして「自分がthevolleyballanalystなのに、まったく思いつかなかった」と書いた。
データを集め分析を生業とするアナリストが、もっとも基本的なフィードバック手法を自分では発想できなかった——その自己開示は飾り気がなく、読んでいてはっとさせられる。勝利の記録の中に、この一文があることの誠実さが、このシリーズの読みごたえにつながっている。
第5セット、大事な局面での判断ミス
同じ2022年の決勝、第5セット。Hai-Binhはスターティングメンバーのポジションを入れ替えた。結果、レセプションのフォーメーションとディフェンスシステムが崩れた。
彼は率直に記している——「自分のせいで負けると思った。ローテーションごとにどう整理するかで頭がいっぱいで、試合展開が見えなくなっていた」と。チームは結果として勝ったが、「あの判断は間違いだった」という自己評価は変えない。勝ちで終わった試合の中にある誤りを、きちんと記録に残す姿勢だ。
ディフェンスシステムの指導を、また省略してしまった
Flaming Six Coyotesの2022-23シーズン、上位リーグで迎えたシーズン。試合を重ねる中で、選手たちがディフェンスの配置を理解していないことに気づいた。ポジション4の選手がミドルからのフェイントに対して動けていない。選手から「どこに守ればいい?」と直接聞かれた。
Hai-Binhが振り返るのは「説明はしたが、理解させる時間を取らなかった」という点だ。そして「American School of Londonのときも同じことをした」と付け加える。同じ失敗が別のチームで繰り返された。それを隠さずに書く。
「また同じことを書いている」という気づきも、記録する
このシリーズを通読すると、同じテーマの反省が複数年にわたって繰り返されていることがある。Hai-Binhはそれを隠さず、「前年も同じことを書いた」と明記することがある。
これは弱さの表れではなく、記録を続けることで初めて見えてくる自分のパターンだ。記録がなければ、同じ課題に気づくことすらできない。10年近く書き続けているからこそ、自分のコーチングのクセが浮かび上がってくる。
日本の現場への示唆
試合後の振り返りを行っているチームは多い。しかし「文章で残し、シーズンをまたいで参照する」形にしているケースは、まだ多くないのではないか。
アナリストがこのシリーズから学べるのは、分析手法だけではない。「自分の関わりを記録する」という習慣が、長期的にどれだけ大きな資産になるかを、Hai-Binhの10年近い積み重ねが示している。改善できたこと、できなかったこと、繰り返してしまったこと——すべてが記録の中にある。その誠実さと継続力が、このブログをただの分析ブログ以上のものにしている。
リンク
- コーチングリフレクション一覧:Coaching Reflections カテゴリ
- American School in London 2025:記事リンク
- American School of London 2022:記事リンク
- Flaming Six Coyotes 2022-23:記事リンク
- ブログトップ:thevolleyballanalyst
