重要なのは正しい答えを見つけることではなく、正しい問いを探すことだ
ピーター・ドラッカー
バレーボールのデータ分析を始めたばかりのころ、手元にある数字のリストを見ると、まるで試合のすべてがわかったような気持ちになることがあります。
「アタック決定率が50%を超えているから、この選手にトスを集めれば勝てるはずだ」「レセプション(サーブカット)の返球率が低かったから、今日の試合は負けたんだ」。わかりやすい数字は、複雑な悩みを一瞬で解決してくれる《正解》のように見えます。心理学のダニング=クルーガー効果でいうところの、《過信の山》に登った状態です。
しかし、毎試合データを取っていくと、やがて現実の試合展開と数字がうまく噛み合わない場面に必ず出会います。
決定率が一番高い選手にボールを集めたのに、なぜかチームは負けてしまった。あるいは、数字の上では大活躍しているはずの選手が、実際のコートではうまく機能していないように見える。
こうした矛盾にぶつかると、「なんだ、結局データなんて役に立たないじゃないか」と《絶望の谷》へ落ち込み、データを見ること自体をやめてしまう人もいます。
一方で、熟練者は、この壁にぶつかったとき、数字を「答え」としてではなく、映像を見直すための《問い》として使います。 たとえば、自チームのレセプションが完璧(#記号)に返っていたとします。ここで分析を終えれば「レシーバーが素晴らしい」で終わりますが、熟練者は「もしかして、相手のサーブがただ弱かった(-記号)だけではないか?」と問いを立てます。
逆に、相手の強烈なサーブでレセプションが乱された(-記号)なら、それは相手のサーブが良かった(+記号)からだと、相手と味方のプレーの結びつきを確認しにいくのです。
こうして見方が深まれば深まるほど、数字だけでバレーボールを語ることの難しさに気づきます。
そのため、分析を長く続けている人ほど、データに対してとても謙虚になります。《継続の台地》にたどり着いた彼らは、監督から「どうすれば勝てますか?」と聞かれても、「この数字の通りに動けば絶対です」とは言いません。
「データからはこんな傾向が見えます。実際の映像で一緒に確認してみませんか」と、対話を提案するようになります。
データは、複雑な試合を整理して見せてくれる便利な道具です。それだけで答えを出してくれる魔法の杖ではありませんが、次にどんなプレーに注目し、何を練習すべきかという大切な《問い》を見つけてくれます。手元の数字がすべてではないと知ること。それこそが、バレーボールを深く理解する第一歩なのです。
