【0から始めるアナリストアカデミー1-2】記録は「記号」から始まる:試合を1文字で切り取る技術

前回の講義では、バレーボールを「期待値」という確率のゲームとして捉える考え方を学びました。では、その確率を算出するための「根拠」となるデータは、一体どのように作られるのでしょうか。

「データ分析」と聞くと、いきなり専用のソフトウェアやパソコンが必要になると思うかもしれません。しかし、分析の第一歩はとてもシンプルです。それは、複雑なプレーを「1文字の記号」に置き換えて記録する習慣をつけることです。

今回は、パソコンがなくても手元のノート一冊で今日から始められる、アナリストの記録術について解説します。

1. アナリストの共通言語「評価記号」を知る

トップチームのアナリストが試合中に記録しているのは、文章ではありません。「データバレー(Data Volley)」や「バレーステーション(VolleyStation)」といった世界標準の分析ソフトで使われている、独自の記号(シンボル)です。

この二つのソフトは同じ記号を使っています。それはVolleyStationが、もともとあるData Volleyを踏襲して作られたシステムだからです。なので、どちらのソフトを使うとしても今から挙げる記号は絶対に覚えなければならないものです。

一見すると暗号のようですが、ルールは合理的です。「誰が」「どのプレーを」「どう評価されたか」を組み合わせるだけで、1つのプレーを表現できます。特に重要なのが、プレーの質を表す以下の評価記号です。

  • # (シャープ):パーフェクト(サービスエース、あるいはすべての攻撃の選択肢が使える完璧な返球など)
    • もっともよい評価
    • 意味はプラスが二つ斜めに近寄るとシャープになるから
  • + (プラス):良い(相手を崩した、あるいはややズレたが十分攻撃可能な返球)
  • ! (エクスクラメーション):普通(相手の攻撃を限定させた、あるいは二段トスになる返球)
    • 現場では「ビックリマーク」ということもあります
  • – (マイナス):悪い(相手にチャンスボールを与えた、あるいは攻撃の選択肢がなくなった返球)
  • / (スラッシュ):ミスに近い(相手の得点に直結するような悪いプレー)
  • = (イコール):ミス(失点。サーブミスやアタックアウトなど)
    • マイナスが二つ重なっているから

もちろん各スキルに応じて、記号の意味は若干変わってきます。例えば、「5番の選手がサービスエースを取った」のであれば、コード化すると「5 S #」となります。これがアナリストたちの共通言語です。

2. 「評価」こそがアナリストの役割

ここで大切なのは、アナリストは単に起きた事実を書き写す「書記」ではないということです。記録する一打一打に、「評価(レーティング)」という自分の判断を込めるのが、アナリストの重要な仕事です。

「今のレシーブはセッターが少し動かされたから『+』ではなく『!』だな」「このサーブは相手の体勢を十分に崩したから『+』だ」という、明確な基準に基づく評価が積み重なることで、単なる記録が価値のあるデータへと変わります。目の前のプレーに対して、責任を持って「記号」というラベルを貼っていく感覚です。

3. 手書きノートで「選手の現在地」を可視化する

手書きのノートでも、この記号を使えば立派な分析が可能です。まずは、自チームの選手名を縦軸に書き、横軸にプレー項目(サーブ、レシーブ、スパイクなど)を並べた表を作ってみましょう。

プレーが起きるたびに、正の字で単に数を数えるのではなく、「#」や「=」といった評価記号を直接書き込んでいきます。そしてセット終了後、その記号を集計します。

各スキルに応じて、評価記号の意味は若干異なってきますが、まずは#(完璧)、+(良い)、-(悪い)、=(失点)の4つの記号だけでよいので、プレーを記録していきましょう。

サーブレセプションアタックブロック
A選手+,-,-,=,=#,+,+,#,=+
B選手=.#,-,-,-#,+,-,-,++,=,=,##,+
C選手-,-,-,-,-,#,#,+,+
D選手+,-,=,=,--,-,=,+,#=
  • (例)A選手のスパイク:打数5、得点(#)が2、ミス(=)が1 → 決定率40%、ミス率10%

こうして記号で細分化して記録することで、「なんとなく今日は調子が良さそう」という曖昧な印象が、「決定率は高いが、実はミスも多い」という具体的な事実へと変わります。数字を通して、選手の実際のパフォーマンスを冷静に捉えることができるようになります。

また、プレーを即座に記号として置き換えられることも、アナリストとして必要な能力です。

4. 記号が「次の練習」の課題を教えてくれる

なぜわざわざ記号で細かく評価して記録するのでしょうか。それは、試合が終わった後に「次に何を練習すべきか」を明確にするためです。

ノートを見返して「サーブレシーブの『-』が連続しているローテーション」を見つけられれば、それが次の練習で優先して取り組むべき具体的な課題になります。

まずは1セット、気になる選手のプレーを「# / + / – / =」の基準で評価して手書きで記録してみてください。その1文字1文字の積み重ねが、チームの現状を正しく把握し、勝利へ近づくための道しるべになります。


今回のまとめ

  • 世界標準の記号(#や=など)を使い、プレーを簡略化して記録する。
  • アナリストにまず求められる仕事は、一打ごとに基準を持って「評価」を下すこと。
  • 手書きのノートでも、記号を使って集計すれば立派な分析データになる。

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