新指標「xValue」とあまり知られていない「効果率」の秘密

バレーボールの試合で「今日のエース、アタック決定率50%です!」と言われたら、「おお、すごい!」って思いますよね。

でも、ちょっと待ってください。 「Aパスからの超カンタンなノーマークのスパイク」を50%決める選手と、「レシーブが乱れて、相手の3枚ブロックが完成している激ムズの二段トス」を50%決める選手。

これ、同じ「決定率50%」で評価していいんでしょうか? そこで登場するのが、新指標「xValue(エックス・バリュー=期待得点価値)」です。

1. 「むずかしさ」を点数にする「xValue」

xValueは、「その状況、普通ならどれくらいの確率で決まる?(どれくらいでミスになる?)」という【状況の難易度】を計算に入れた新しい指標です。この「どれくらい」というのはそのリーグの平均から引用します。女子の高校レベルと男子国際レベルでは当然、この「どれくらい」が変わってきます。

バレーボールをやっていれば、こんな場面に心当たりがありませんか?

  • 激ムズなセットを打ち切って決めた!: 「うおおお!あそこからよく決めた!」と特大のプラス評価
  • 激ムズなセットを打って、ブロックされた: 「まあ、あの状況なら仕方ないよね」とちょっとだけのマイナス評価
  • カンタンな状況をミスした: 「ええっ、そこは絶対決めてよ…」と特大のマイナス評価

このように、ただの決定率ではなく「チームのピンチをどれだけ救ってくれたか」「絶対にミスしてはいけない場面で、確実に点を取れたか」が数字になってハッキリ現れるのが、xValueのすごいところなんです。

2. チャド・ゴードン氏が語る「効果率」の本当の意味

ここで、このxValueの考え方を裏付ける、面白いデータ分析のお話を一つ紹介します。

海外の最先端バレーボール・アナリティクスを発信する、チャド・ゴードン氏のブログ『VolleyDork』。その中の「Efficiency vs. Expected Value(効果率 vs 期待値)」という記事では、私たちが普段よく見ている「効果率」について、こんな衝撃的な解説がされています。

“効果率は、そのまま「そのラリーを取れる確率(勝率)」に変換できる。”

Chad Gordon (VolleyDork「Efficiency vs. Expected Value」より)

計算式はとってもカンタンです。 【(効果率 + 1)÷ 2 = ラリー勝率】

これに当てはめると、効果率の本当の意味が見えてきます。

  • 効果率 100% (1.0) = (1 + 1) ÷ 2 = 100% ラリーに勝つ!
  • 効果率 -100% (-1.0) = (-1 + 1) ÷ 2 = 0% ラリーに負ける…

ここまでは当たり前ですよね。でも、一番面白いのは次です。

  • 効果率 0% (0.0) = (0 + 1) ÷ 2 = 50% ラリーに勝つ(五分五分!)

「効果率ゼロ」と聞くと「チームに貢献してないじゃん…」と思ってしまいがちです。でも本当は、「相手に点を取られる確率と、自分たちが点を取る確率を、ピッタリ50%の五分五分に保っているニュートラルな状態」なんです(厳密には違いますが)。

3. 「効果率ゼロ」の地味なプレーが、実は神プレー!?

これが分かると、xValueがなぜ凄いのかがもっとよく分かります。

たとえば、相手の3枚ブロックが綺麗に揃った、めちゃくちゃ苦しい二段トス。 普通に打てばシャットアウトされてしまう、「このラリーを取れる確率は30%しかない」という大ピンチだとします。

ここで無理に強打してドシャットを食らう(効果率 -100%)と、チームの勝率は30%から一気に0%に落ちてしまいます。

でも、ここで賢いアタッカーが「ブロックの指先を狙ってフワッと当て、味方にリバウンドを拾わせた(ラリー継続)」とします。 スパイクは決まっていないので、このプレー単体の効果率は「0%」です。

しかし、先ほどのチャド・ゴードン氏の理論を思い出してください。効果率0%ということは、「勝率30%しかなかった大ピンチを、勝率50%(五分五分)の状況にまで回復させた」ということになります!

数字上は「効果率ゼロ」の地味なプレーですが、実はチームの勝率を20%も引き上げた、エース級の大仕事なのです。 xValueは、この「見えないファインプレー(勝率を上げたプレー)」を絶対に見逃さず、しっかりとプラス評価してくれます。

4.xValueの弱点

ここまでxValueの凄さをお伝えしてきましたが、もちろんxValueが完璧な指標だ、というつもりはありません。いくつかのデメリットがあります。

1.基準を作る大量のデータが必要

まずxValueは、「この難しいトスなら、平均して〇%くらい決まるはずだ」という「基準(期待値)」を使って計算します。 この正しい基準を作るためには、膨大なプレーデータが必要です。もし、「1試合分(数セット分)だけのデータ」をこのツールに入れた場合どうなるでしょうか? 「たまたまその試合は相手のブロックが良くて、全員アタックが決まらなかった」という偏った結果がそのまま「基準」になってしまい、正しいxValue(貢献度)が計算できなくなってしまいます。データが少なすぎると、基準となる数字がブレてしまいます。

2. 入力者の「主観」に依存してしまう

xValueのベースライン(期待値)は「Aパス(#)からのクイック」といった条件で計算されますが、そもそも「そのパスが本当にAパスだったのか?」を判断するのは、キーボードを叩いているアナリストです。 「今のパスはセッターが少し動いたからBパス(+)だ」「いや、あれはAパス(#)だ」という入力者の基準のブレが、そのままxValueの計算の狂いに直結します。

3. 「見えない文脈(コンテキスト)」が抜け落ちる

現在のxValueは、「パスの質」「攻撃の種類」「フェーズ(SOかトランジションか)」で難易度を測っています。しかし、実際のコート上にはデータに記録されない重要な要素が山ほどあります。

  • 相手ブロッカーの枚数や高さ: 同じ「Cパスからのハイセット」でも、相手のブロックが170cmの選手1枚の時と、200cmの選手3枚が完璧に揃っている時では、本当の難易度は全く違いますが、データ上は「同じ期待値」として処理されてしまいます。
  • プレッシャー(点差やセットの状況): 1セット目の序盤(0-0)で打つスパイクと、フルセットのジュース(24-24)で打つスパイクを、数学的に同じ価値として扱ってしまいます。

4. 「セッターの能力」との切り離しができない

バレーボールの最大の特性である「すべてのプレーが繋がっている」ことが、個人評価の足かせになります。 例えば、レシーブが完璧なAパス(#)で返ったのに、セッターがトスをミスしてアタッカーの打点が極端に下がったとします。これをアタッカーがミスした場合、xValue上では「Aパスからの簡単な攻撃をミスした」として、アタッカーに特大のマイナス評価(大減点)がついてしまいます。トスが悪かったという「セッターの責任」を、アタッカーが被ってしまうリスクがあります。

5. 「継続したその後」までは評価できない

先ほど「難しいボールは継続させて効果率0(勝率50%)にすれば高評価」と解説しました。 しかし、リバウンドを取った後、相手チームの強力なカウンター攻撃で結局失点してしまった場合、その責任はどこにあるのでしょうか? xValueはあくまで「その1回のボールタッチの価値」を評価するものであり、「そのラリーが最終的にどう終わったか」という未来の連鎖までは完全に評価しきれません。

もちろん、今の技術でも様々な要因を入れ込むことで、もっと正確なxValueを作ることも可能ですが、サンプルの数やデータを集める労力を考えると、今くらいの要因くらいが良いバランスなのかなと思います。将来的にトラッキングデータを活用できるようになれば、もっと詳細な、例えばコート後方8mからのスパイクは期待値○○といった計算もできるようになると思います。

4. CourtEndダッシュボードでの見方

CourtEndのダッシュボード「アタック」タブには、この考え方をベースにした2つの指標が用意されています。

  • 👑 Total_xValue(トータル・エックス・バリュー) 試合を通して、むずかしさも考慮して「チームに何点分の貯金(プラス)を作ったか」の合計です。打数が多く、難しいボールを何度も打ち切ってチームを勝たせた「絶対的エース」が上位にきます。
  • xValue/100(エックス・バリュー・パー・100) 「もしこの選手に100本トスを集めたら、何点稼いでくれる?」という「1発あたりの質(効率)」を表します。打数が少なくても、上がってきたボールを確実に得点につなげるミドルブロッカーや、控えの「一撃必殺の仕事人」を見つけるのにピッタリです。

決定率が高くても、大事な場面でのミスが多ければチームは負けます。 xValueは「得点(+1)」と「失点(-1)」の両方を、そのシチュエーションの期待値と掛け合わせて計算するため、「その選手がコートにいることで、最終的にチームに何点の貯金をもたらしたか」という、試合の勝敗に最も直結するリアルな貢献度を表すことができます。

xValueは「完璧な指標」ではありませんが、これまでのバレーボール界が抱えていた「数字(決定率)と、現場の感覚(あの選手は苦しい時に決めてくれる等)のズレ」をピタリと埋めてくれる、最強の翻訳機になりえます。

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