このコードの構造(文法)を深く理解することは、アナリストにとって大きな武器となります。なぜなら、データバレーの生の文字列を読み解くことができれば、コードを見るだけで、プレーが想像でき、高度な統計ツールを用いた緻密なデータ分析も可能になるからです。
本記事では、データバレーを支えるコードの構造を、基本から拡張部分まで詳細に解剖します。
1. すべての基礎となる「基本の6文字」
データバレーのコードは、1つのプレー(タッチ)に対して1行の文字列で記録されます。その最も重要な中核となるのが、最初の6文字です。左から順番に、誰が・どのようなプレーを・どんな結果で行ったかを示しています。試合中選手がボールを触った一つ一つのプレーが、それぞれ1行のプレーとしてあらわされます。
言ってみれば、この6文字は言語の文法と同じです。「選手(主語)」が「プレー(動詞)」を実行し、「結果(修飾語)」を生む。このSVO構文を読み解くことで、コート上の事象が一つの明確な文章として浮かび上がります。
| 位置 | 項目 | 意味・役割 | 入るコード |
| 1文字目 | チーム | どちらのチームのプレーか | * (ホーム), a (アウェイ) |
| 2〜3文字目 | 背番号 | 誰がプレーしたか | 01 〜 99 |
| 4文字目 | スキル | どんなプレーか | S (サーブ), R (レセプション), A (アタック), B (ブロック), D (ディグ), E (セット) |
| 5文字目 | ヒットタイプ | プレーのテンポや種類 | H (ハイボール), M (ミドル), Q (クイック), T (テンポ) |
| 6文字目 | 評価 | プレーの質・結果 | # (得点/完璧), + (良), ! (注意/普通), - (不良), / (継続), = (失点/エラー) |
【例】 *01AH# というコードの場合
「ホームチーム(*)の背番号1番(01)が、アタック(A)のハイボール(H)を打ち、得点(#)した」という1つのプレーを表しています。
2. コードの拡張:詳細な戦術情報を記述する
基本の6文字の後に続く文字列は、より具体的な戦術情報(コンビネーション、位置情報、特殊な状況)を付与するための拡張エリアです。
コンビネーションコード(7〜8文字目)
アタックの戦術やセットの配球パターンを示します。チーム独自の呼称と紐付けるための重要な要素です。
X1(Aクイック)、X2(Cクイック)、V5(ライト側への高速セット)など、事前に定義した2文字の英数字が入ります。これは使用しているチームや国によって、多様なバリエーションがあります。日本では、PA(Aクイック)、P8(パイプ)といったPを多く使うコンビネーションコードが一般的です。
ゾーンとコース情報(10〜12文字目)

プレーがどこから始まり、どこへ向かったか(空間情報)を記録します。コートを9分割した数字(1〜9)と、さらに細かく分割したアルファベット(A, B, C, D)の組み合わせで表現されます。
| 項目 | 文字列の位置 | 役割 |
| Start Zone | 10文字目 | プレーの開始位置(例:サーブを打った位置、アタッカーの踏み切り位置) |
| End Zone | 11文字目 | ボールの落下点や、プレーの終了位置(1〜9) |
| End Sub-zone | 12文字目 | End Zoneをさらに4分割した詳細な位置(A〜D) |
【例】 a05SQ=~~19A の場合
「アウェイ(a)の5番(05)のサーブ(S)がエラー(=)になり、開始位置はゾーン1(1)、落下点はゾーン9(9)のサブゾーンA(A)であった」という詳細な軌跡がコード化されています(~は空欄を意味します)。
3. 実践編:複雑なコードを読み解く(長文コードの例解)
前章で学んだ基本の6文字と拡張エリアの知識を使って、実際の試合データに記録される長いコードを解読してみましょう。
実際のデータバレーのコードでは、情報が入力されていない(省略された)箇所には「~(チルダ)」が挿入されます。これにより、コードの文字位置(桁数)が常に固定されるという重要なルールがあります。「〇文字目は必ず〇〇の情報を表す」という規則性が保たれるため、プログラムでのデータ抽出が容易になります。
ここでは、実践で頻出する3つの代表的な長文コードを例示し、その構造を分解します。
例1:戦術とコースが記録された「アタック」
【コード例】 *04AH#P1~45CH3X
これは、ハイボールの攻撃が成功し、得点に至ったシーンを記録したコードです。
| 位置 | コード | 項目 | 読み解き方 |
| 1-6 | *04AH# | 基本の6文字 | ホームチーム(*)の4番(04)が、アタック(A)のハイボール(H)を打ち、**得点(#)**した。 |
| 7-8 | P1 | コンビネーション | 攻撃の戦術パターン。このチームでは「P1」をレフトからのハイボールとして定義している。 |
| 9 | ~ | ターゲット | (今回は指定なし) アタックでは使用しません |
| 10 | 4 | 開始ゾーン | アタッカーが踏み切った位置。ゾーン4(レフト前衛)。 プログラムがコンビコードに応じて自動で挿入します。 |
| 11 | 5 | 終了ゾーン | ボールが落ちた位置。ゾーン5(レフト後衛方向)。 |
| 12 | C | 終了サブゾーン | ゾーン5の中でも、左上(C)に決まった。 |
| 13 | H | アタックのタイプ | 強打のアタックであることを示します。 |
| 14 | 3 | ブロックの枚数 | 3枚ブロックがついた |
| 15 | X | 状況 | ボールがコートにそのまま落ちた。 |
これをすべて入力しなければならないわけではなく、アナリストの技量や、チームの求めるデータに応じて、あえて入力しない部分もあれば、16文字目以降に入力できるカスタムコードという部分に情報を付け足すこともあります。
例2:球種と移動軌跡がわかる「レセプション(サーブレシーブ)」
【コード例】 a12RM-~~~61AL4
| 位置 | コード | 項目 | 読み解き方 |
| 1-6 | a12RM- | 基本の6文字 | アウェイチーム(a)の12番(12)が、レセプション(R)を行い、相手の球種はジャンプフローターサーブ(M)で、結果はマイナス(-:Cパス相当)だった。 |
| 7-9 | ~~~ | コンビネーション | (レセプションには使用しないため空欄) |
| 10 | 6 | スタートゾーン | 相手サーバーが打った位置。ゾーン6(センター後方)。 |
| 11 | 1 | エンドゾーン | 12番がレシーブした位置。ゾーン1(ライト後衛)。 |
| 12 | A | エンドサブゾーン | ゾーン1の中でも、**前衛寄り・サイドライン際(A)**で捕球した。 |
| 13 | L | 捕球位置 | レシーバーが体の左側でレシーブした |
| 14 | 4 | レシーブ隊形 | 3人レセプション隊形の真ん中のレシーバー |
例3:レセプションからのセッターの「セット」
【コード例】 a03EQ+KAC3B
サーブ単体の得点ではなく、相手を崩すことに成功した戦術的なサーブのコードです。
| 位置 | コード | 項目 | 読み解き方 |
| 1-6 | a03EQ+ | 基本の6文字 | アウェイチーム(a)の3番(03)が、セット(e)、あげたところはミドル(Q)。評価はプラス(+:セットはエラーやオーバーネット以外についてはあまり評価をしないのでデフォルトの+)。 |
| 7-8 | KA | セッターコール | ミドルブロッカーの入り方によって変わる。KAはミドルがAクイックに入った。 |
| 9 | C | ターゲットアタッカー | F(レフト)、B(ライト)、C(ミドル)、P(パイプ)のうち、どこに上げたのか。Cはミドルに上げた。 |
| 10 | 3 | スタートゾーン | どこから上げたのか。3なので、ネットの近く |
| 11 | B | スタートサブゾーン | 3Bはネット際。 |
4. まとめ:データバレーコードはアナリストの共通言語
データバレーのコードは、単なる入力ツールの仕様ではなく、バレーボールの事象をデジタルデータとして表現するための「世界共通の言語」です。バレーステーションも、入力の仕様が違う部分がありますが、コードの構成としてはほとんど同じといってもよいです。
この構造を完全に把握することで、映像の正確なタイムスタンプと文字情報を紐付けた独自のスカウティングシステムの設計や、レポートの完全自動化など、アナリストとしての業務の幅と分析の深さは飛躍的に向上します。まずは基本の6文字と、それに続くゾーン情報のルールから、コードを「読む」習慣をつけてみてください。
