イギリスのバレーボール分析者が15年間続けているブログ——「thevolleyballanalyst」とは何者か

バレーボールの分析について、英語で情報を発信し続けているブログがある。

運営者の名前はHai-Binh Ly(ハイ・ビン・リー)。イギリスを拠点に活動するパフォーマンスアナリストで、ブログのタイトルはそのまま「thevolleyballanalyst(バレーボールアナリスト)」。最初の投稿は2009年にさかのぼり、現在も更新が続いている。

バレーボール分析に特化した個人ブログが、15年以上にわたって更新され続けている。それだけでも、このブログは世界的に見てきわめて稀な存在だと言っていい。

今回から数回にわたって、このブログのエッセンスを紹介していく。引用についてはBinhから直接許可を得ている。まずこのイントロ記事では、「なぜBinhのブログは読む価値があるのか」という問いに答えたい。


Hai-Binh Lyという人物

Binhは1996年からバレーボールを始め、2009年にパフォーマンスアナリストとしてのキャリアを目指すことを決意した。その動機についてブログのAboutページで、「信頼できる客観的なデータを通じて、バレーボールのパフォーマンスを向上させる最も効果的な方法を知りたかった」という趣旨を述べている。

現在の肩書きは多岐にわたる。ロンドンのアメリカンスクール(ASL)でバレーボールのヘッドコーチを務めながら、ポロニア・サイドアウト・ロンドンとイングランド男子シニア代表のパフォーマンスアナリストを兼任している。2022年のバーミンガム・コモンウェルスゲームズではビーチバレーボールのアナリストとして参加し、2024年にはインドのプロリーグ「Prime Volleyball League」でハイデラバード・ブラック・ホークスのアナリストを務めた。また、グレートブリテン・シッティングバレーボール男子代表でのアナリスト経験もある。

コーチとしては2010-11シーズンからイギリス各地のクラブや大学チームを指導し、リーグ優勝や昇格を複数回達成している。City University London(現City St George’s University)の女子チームでは4シーズンで3度のディビジョン優勝を果たした。

アナリストとコーチを長期にわたって兼任している人物は決して多くない。その経験の厚みが、このブログのすべての記事に通底している。


ブログの構成——5つのカテゴリ

ブログは大きく5つのカテゴリに整理されている。

Fundamentals(基礎)は、パフォーマンス分析の考え方そのものを解説するカテゴリだ。「なぜデータが必要か」「パフォーマンス指標とは何か」「どの統計が勝敗に相関するか」といった、ゼロベースで考えるための記事が並ぶ。入門者にとって最初に読むべき記事群でもある。

Statistics(統計)では、バレーボール統計の定義や記録方法など、より実務的な内容を扱う。DataVolleyのような専門ソフトを持たなくても実践できる、ペンと紙を使ったスタッツ記録のガイドも含まれている。

Insights(洞察)は、データ分析の結果を試合や判断に直結させるカテゴリだ。「どの攻撃タイプが最も得点効率が高いか」「セッターはもっとアタックすべきか」「リーグ全体の競争水準は例年と比べてどうか」といった問いを、実際のデータで検証している。

Journey(旅)は、Binh自身の個人的な学びの記録だ。Googleデータアナリティクス認定資格の取得過程を全8コース分にわたって書き記した連載や、スコットランド代表帯同記、インドのプロリーグでの経験など、現場のリアルが記録されている。

Coaching Reflections(コーチングの振り返り)は、このブログ最大の特徴のひとつともいえるカテゴリで、後述する。


このブログの3つの際立った特徴

1. 15年以上、更新が止まっていない

バレーボール分析に関する個人ブログ、という条件でウェブを探してみると、その数は驚くほど少ない。そして見つかるものの多くは、数本の記事を書いたあと更新が止まっている。

Binhのブログは違う。2009年に始まり、2026年4月の現在もなお更新が続いている。試合や大会の合間に、シーズン終了後に、資格取得の合間に、コツコツと書き続けてきた。

バレーボール分析という極めてニッチなテーマで、英語圏においても継続的に発信を続けている書き手はほとんどいない。その継続性それ自体が、このブログの最大の価値のひとつだと私は思っている。

長く続けることの意味は単純ではない。最新の記事が2026年で、最古の記事が2009年ということは、バレーボール分析という領域がどう変化してきたかを、一人の視点から追いかけることができるということでもある。また、Binhという人物がどう成長し、何を変え、何を変えなかったかも見えてくる。

2. 失敗を、包み隠さず書く

Binhのブログで最も印象的なカテゴリが、コーチングリフレクションのシリーズだ。

毎シーズン終了後、Binhは自分のコーチングを振り返る記事を書く。うまくいったこと、うまくいかなかったこと、判断ミス、選手との関係で生まれた摩擦、戦術の読み違い——それらが、統計データとともにかなり率直に書かれている。

たとえば、2025-26シーズンのCity St George’s University女子チームの振り返りでは、選手からのフィードバックが引用されている。「サーブレシーブの練習に早い段階からもっと集中すべきだった」「練習をもっとハードにすべきだった」といった、コーチへの批判的な意見もそのまま掲載されている。自分の指導に対する否定的な評価をブログに公開できる書き手が、いったいどれほどいるだろうか。

これは単なる「謙虚さの演出」ではないと思う。パフォーマンスアナリストとしての哲学——感覚ではなく客観的なデータで判断する——が、自分自身の評価にも一貫して適用されているということだ。自分に都合の悪いデータも見る。それが分析者としての姿勢だと、Binhは行動で示している。

3. 問いを立て、データで検証し、読者に考えさせる

Binhのブログ記事の多くは、「〇〇はどうなのか?」という問いから始まる。

「どの攻撃が最も得点効率が高いか?」「セッターはもっとアタックすべきか?」「コーチはチームをどれだけ改善できるか?」「女子スーパーリーグは今シーズン例年より競争が激しかったのか?」

そして必ず、実際に集めたデータで検証する。DataVolleyでコーディングした自チームの試合データ、複数シーズンにわたって蓄積したパフォーマンス記録、選手の出席率データ——材料は常に現場から来る。

重要なのは、結論を押し付けないという姿勢だ。「このデータによれば〜という傾向が見られた」という形で提示し、読者自身が判断する余地を残している。「私のチームではこうだった」という特定条件下の話をしながら、それが一般化できるかどうかについては慎重だ。この誠実さが、読者からの信頼を積み重ねてきたのだと思う。


国内のバレーボール分析に関する情報発信は、少しずつ増えてきているとはいえ、まだ非常に限られている。Binhのブログが扱っているような「なぜデータが必要か」「どの統計が勝敗に本当に関係するか」「現場でどう使うか」といった問いに、日本語で体系的に答えているリソースはほとんどない。

さらに言えば、「分析者が自分のコーチングや分析を振り返り、失敗も含めて公開する」という文化は、日本のスポーツ界ではまだほとんど根づいていない。Binhのブログはその意味でも、ひとつの参照点になり得ると私は考えている。

彼が積み上げてきた問いと検証のプロセスは、SVリーグ、大学バレー、地域クラブ、どのレベルで働いていても参考になるはずだ。使うツールがDataVolleyであれ、Volleyball Stationであれ、あるいはExcelであれ、「データで考える習慣」の作り方という点では共通している。


今後の紹介予定

次回以降、以下のテーマで個別の記事を書いていく予定だ。

  1. 記憶のバイアスとデータの必要性——「コーチの記憶はなぜ信用できないか」という根本的な問い
  2. データでスタメンを決める——3人のリベロ、4人のウィングスパイカーから誰を選ぶか
  3. 攻撃タイプの得点効率比較——スパイク・フェイント・ロールショット、どれが最も有効か
  4. コーチングリフレクションシリーズ——失敗の公開という文化について
  5. Googleデータアナリティクス資格挑戦記——バレーボールアナリストがデータサイエンスを学ぶとどうなるか

どれも単体で読める記事になる予定だが、Binhという人物とその思想的背景を知っておくと、より深く読めると思う。そのための記事が、このイントロだ。


まずはブログを覗いてみてほしい

百聞は一見に如かず。まずブログを見てみることをおすすめしたい。

英語ではあるが、技術的な専門用語よりも「問いを立てて検証する」という論理の流れを追う記事が多いので、バレーボールの文脈を知っていれば読みやすい。

thevolleyballanalyst https://thevolleyballanalyst.wordpress.com/

Instagram、YouTube、Facebookでも発信している。特にInstagramでは、ブログ記事のサマリーや試合データのビジュアライゼーションが投稿されている。


本記事は、Hai-Binh Ly氏のブログ「thevolleyballanalyst」の公開情報をもとに、筆者が独自の視点で執筆したものです。引用・紹介についてはBinh本人から許可を得ています。記事の内容に関するご意見・お問い合わせは、ブログのContactページからBinhに直接連絡することもできます。

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